フィンランドという国
フィンランドの大学制度が日本と大幅に違うのは,「修業年限が決まっていない」ことです.大学生は銀行から低利・長期返済で生活費を借りることができるので,早い人で卒業まで6年くらい,中には10年計画という人もいるくらいゆっくりと大学に通います.途中で兵役(男性のみ,17歳から30歳の間の好きな時に8か月間)に行く人もいます.また,学籍はあるが会社に勤めているという人もいて,学生生活の最後の方になると学生なのか働いているのかよくわからなくなります.
大学を出ると,修士号が得られます.博士号をとるために研究している,大学院生に相当する人々は,たいてい大学の助手や研究所の研究員の身分で給料をもらっています.大学や研究所の研究者には,「研究休暇」というおもしろい制度があります.これは,学位論文の執筆などの個人的な研究活動のために取る休暇です.この期間中は給料はもらえませんので,研究所自身やフィンランド・アカデミーなどが出す奨学金をとって休暇をとります.また,この制度を利用して外国に行ったり,他の民間会社で時限契約で働く人もいます.
フィンランドでは,「先生というのはさほど尊敬される職業ではない」そうです.大学で助手をしてらっしゃる日本人の方は「フィンランドの学生は,先生というのは知識という商品をサービスしてくれる『サービス業』だと思っている」とおっしゃってました.実際,学生は先生を,研究員は所長をファーストネームで呼びますし,あまり上下の関係を感じません.これはフィンランド社会全体にも感じられることで,年齢が10歳以上離れていても友達としてごく普通につきあうことができます.言葉にもあまり敬語表現がなく,Mr.やMrs.にあたる言葉も大統領夫妻くらいにしか使わないようです.
私のいたVTTの医療情報工学部門と,タンペレ工科大のいくつかの研究所は,タンペレ市郊外の研究所地区にある同じ建物内にありますが,大学とVTTとでは研究体制はかなり違います.大学の体制は日本のそれに近く,各研究者が独自のテーマで基礎研究を行っています.これに対しVTTでは外部からプロジェクトを募集し,それに沿って2年から3年の期限付きで研究を行います.また研究者の勤務体制をみても,大学の研究者は夜が遅い人が多いのに比べ,VTTの人は朝8時に出勤し夕方4時過ぎに帰るという勤務時間を守っています.ただ,民間を含めた研究機関の間の共同研究は活発で,私自身も,VTTに在籍していましたが,工科大の2つの研究所と大学病院の人々と共同で睡眠時脳波の自動解析を研究しました.
滞在中,幼稚園と小学校を訪問し、講演する機会がありました.幼稚園では園児の数に比べてやたらに先生が多いように感じられましたが,実はフィンランドの幼稚園では,園児7人に1人以上の先生がつくことに法律で決まっているそうです.この時の講演のようすは、地元の無料情報紙"Lempäälän-Vesilahden Sanomat"で「日本人の研究者Lempäälä(町の名)に来訪」という題で報じられました。
フィンランドの子供たちはおとなしくて秩序正しい子が多く,プレゼント等をもらってもあまり大騒ぎして喜ぶことはないそうです.講演も大変おとなしく聞いていました.小学校の先生には「日本の子供はもっと静かだろう」と言われましたが,そんなことはないとおもいます.
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