finland
"Suomi ei ole ..."
フィンランドは...ではありません

フィンランドは他のヨーロッパ諸国とは民族的・言語的に異なるため, いろいろ誤解をうけているところがあります.そして,フィンランド人自身が, 「誤解されている」と感じているようにも見受けられます. そんな意識が良く現れている文書をご紹介します.

ヘルシンキ市のツーリストオフィスで見つけた, Helsinki Guideという英語の観光案内パンフレットの1994年冬号に,「フィンランドは ...ではありません」(Finland - what it is not!)という,Matti Larres氏の 記事がありました.この記事は,「フィンランドは...ではない」という形式の 10箇条にそれぞれ解説がついた体裁になっています.以下,10箇条を引用し, 注釈をつけます.

フィンランドは小さな国ではないし,北極点のそばの国でもない.
解説によると「フィンランドはヨーロッパで6番めに大きい国で,また,ヘルシンキから北極点までの距離は,ストックホルムから北極点までの距離と同じ」だそうです.
 
フィンランドでは年中凍えるほど寒いわけではなく,ヘルシンキの通りをシロクマが歩いているなどということはない.
確かに,知り合いの日本人に「フィンランドといえばシロクマとオーロラ」と言っていた人がいました.
 
フィンランド語はスラヴ語ではなく,ロシア語が話せるフィンランド人は残念ながらほとんどいない.
私が帰国直後,久しぶりに会った日本人のなかにも「フィンランド語で『おはよう』は,どうせGuten何とかだろう?え,違う?あ,そうか,フィンランド語はチェコ語と関係してるものな」(正しくはハンガリー語です)とか「フィンランドといえば,ロシア語だな」といっている人はけっこういました.こういうことを自信ありげに言うのは,年配の目上の人が多いので,いちいちムキになって反論したりはしませんが...
 
フィンランドは戦争のときの占領でそれほどひどいめには会っていない.
解説によると「第2次世界大戦に参戦したヨーロッパの国で,他の国に占領されなかったのはイギリスとフィンランドだけ」だそうです.
 
フィンランド人とラップ人は同じものではない.
ラップ人(現在は普通サーメ人といいます)は,フィンランド・スウェーデン・ノルウェーの北部に住む人々で,独自の文化と言語をもっています.サーメ語はフィンランドの「内国語」のひとつで,フィンランド北部では道路の案内標識もフィンランド語とサーメ語の両方で書いてあります.
 
フィンランドは東側ブロックの一員であったことはないし,現在もない.「東側ブロック」というものが現在もあるとすればの話だが.
 
フィンランド人は一般に言われているほど酒飲みではない.
確かにそうなのですが,日本大使館から在住日本人に送られてきた「安全の注意」には,「フィンランド人はふだんはあまり酒を飲まないが,飲むときには痛飲する傾向があり...」と書いてありました.アパートにいた学生も,ふだんは酒を飲まないのに,友達が集まって飲んでいた時には台所で酔いつぶれて寝ていました.
 
フィンランド人は魚ばかり食べているわけではない.
「ノルウェー人は釣り竿を持ってスキーを履いて生まれてくる」という言葉があるそうですが,私も,魚は外洋で採るノルウェー産のものの方がおいしいと思います.
 
フィンランドは,巷でいわれているような"limitless sex"の国ではない.
解説によると「サウナはよくセックスと関連づけて語られるが,フィンランドではサウナとセックスは別のものである.家族は一緒にサウナに入るが,他の国にあるような混浴の公衆サウナはフィンランドにはない」そうです.日本にも,「フィンランド」といえば「フリーセックス」という言葉を連想する人がしばしばいるようです.
 
フィンランドは,東西陣営の狭間でものすごく不自由な境遇にいるわけではない.
日本にも「フィンランド化」などと言っていた首相がいましたが,フィンランド政府は「東西の融和を積極的に進めてきた」ことを誇りにしているようです.ただ,研究所の人からは,「1980年ころまでは,ソ連に批判的な言論はできないなどの不自由なこともあった」と聞きました.

ところで,フィンランドの新聞"Kauppalehti"(商業新聞)1994年10月12日付に,フィンランドのEU加盟についての国民投票について報じたフランスの新聞"L'Expansion"についての記事がありました.

紙面には"L'Expansion"の記事のコピーが掲載されており, その記事には「フィンランドの国民投票が,スカンジナヴィア諸国で最初に,10月16日に行なわれる.社会民主党のGro Harlem Brundtland首相は加盟推進派である」と,Brundtland女史の写真とともに書いてありました.

Brundtland女史はノルウェーの首相(当時)で,Kauppalehtiの記事には「(フィンランドの)Esko Aho首相は性転換手術を受けたのだろうか?」と皮肉ってありました.

ヨーロッパの中心から見ると,北欧というのはその程度の認識なのでしょうか?以前スウェーデンに住んでいた日本人とスイスで会い,北欧の住みごこちのよさについて話した時に,その方は「つまり,北欧はヨーロッパ全体でみると,『国中が田舎』なのだろう」とおっしゃっていました.



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