フィンランド滞在中の1994年の夏休みに,私は1カ月ほど外国人向けのフィンランド語講座に通いました.全部で十数か国の人々が集まり,実に楽しい授業でした.その最後に,「フィンランドにおける外国人にとっての問題」という映画を見ました.この映画では,フィンランドの習慣やフィンランド人が,他の欧米人から見ても変わった存在であることがよく現れていました.そこで,そのあらすじをここに書いてみたいと思います.
							よく「フィンランド人はアジア系」という話を聞きますが,この根拠となっている「ウラル=アルタイ語説」(フィンランド語・ハンガリー語等のウラル語と,満州語等のアルタイ語(日本語もその一つではないかと言われている)が共通の祖先を持つという説)は,現在は学問的にはほとんど支持されていないそうです.実際,フィンランドに行ってフィンランド人を見てみると,どこからどうみても白人で,他の北欧人よりもすこし平均身長が低いかな(それでも日本人よりはずっと高い),という程度です.もしかすると,フィンランド人の,他のヨーロッパ語と全く違う言語と特別な習慣を他のヨーロッパ人が見て,「自分たちとは違ったやつら」ということで「アジア人」と言ったんじゃないか,と私は思っています.
							話は,すこしフィンランド語ができるある外国人(カナダ人)のおばさんがフィンランドに来て,フィンランド人の家を訪ねるのですが,なんかうまくいかない.それで,6か月後,再び訪ねたときには,習慣がわかったのでうまくいく,という話です.映画といっても,運転免許の更新のときの安全講習の映画よりも,もっと簡単なつくりの映画です.
							
								- 字幕は,おばさんの心の中をあらわしています.
								
 - ☆の行は,私のコメントです.
							
 
							
							最初,はじめて町にやってきて,英語でバスのりばを聞こうと
							
							おばさん:"Do you speak English?"
							通行人: "No, No!"[といって逃げてしまう]
							字幕:どうして本当のことをいわないの?
							☆英語が話せても,「すこし」というふうに遠慮がちにいう人が多い.
							おばさん:"Missä on ...?"(どこに...)[フィンランド語で話しかける]
							通行人: "Yes, ..."[英語で返事をする]
							字幕:どうして英語で話すの?
							☆なのに外人には英語で話そうとする.
							 
							バスのりばで
							
							おばさん:[フィンランド語で]「○○へいきたいのですが,どこで降りればいいんでしょう」
							フィンランド人のおばあさん:「Puhutko suomea?(フィンランド語を話すんですか?)」
							おばさん:「はい,すこし話します.」
							おばあさん:「xxxxxxxxx」[早口のフィンランド語でまくしたてる]
							おばさん:「?????」
							☆"Puhutko suomea?!"とおどろいた調子でいわれるのは,私もよく経験しました.はい,というと結構よろこばれますが,以後フィンランド語だけになるのでかなり苦労します.
							 
							車内で
							
							おばさんがとなりの男性に話しかけるが,話にのってこない.
							☆あまり見知らぬ人とは話をしない.
							おばさんが通路側にすわっている.窓側に座っている男性が,手袋をつけたりしているが,おばさんが気付かないのでイライラしている.
							☆横の人が降りようとしているのは察しなければならない.ふつうはいちいち声をかけない.
							さっきのおばあさんが後の席から「おりるバス停ですよ」と声をかける.
							 
							招待した人の家で(なんとまあ名前がSuomalainen("フィンランド人")さん)
							
							ドアがあく.おばさんがいきなり"Terve,Terve!!"("terve"は「健康な」という意味で,こんにちは,ぐらいの意味のあいさつ言葉)といって奥さんにだきつき,奥さんがびっくりしてしまう.それで,おばさんが「手紙をもらったなんとかですけど...うんぬん」「そりゃわかってますが」てな会話になる.奥さんが子供を奥の部屋にやってしまう(先生が「これは歓迎していないということです」と解説していた).
							☆ふつう,たとえ手紙をやりとりしていても,電話をせずに突然家を訪問することはない.
							さらに女性が一人やってきて(たぶんとなりの人かだれかでしょう),4人でテーブルをかこむ.ところがおばさんが手をつけないので,だれも手をつけられなくていらいらしている.おばさんはそれがわからなくて,さっきの隣人に何かフィンランド語で話しかけると,隣人は不機嫌そうに"I don't speak English!!"などと返事する.さらに,おばさんが甘いものに先に手をつけるので,変な目でみられる.さらに,会食中だれも口をきかないので,おばさんが悩んでしまう.
							☆客が手をつけるまでは,家の者は手をつけない.
							☆甘いものとそうでないものが出ているときは,まず甘くないものから手をつける.
							☆食事中だまっていても別におかしくはない.
							字幕:「なにかわるいことしたかしら?」
							ご主人がソファーに座っているところに,おばさんがやってきて,となりに,ぴったりくっついて座ると,ご主人がさけてしまう.ここでカメラが,おばさんの全身を上から下へ写す(おばさんは靴をはいたまま家にはいっている).おばさんが,たばこを吸いだす(マールボロだった…どうでもいいことですが).別の部屋にいた奥さんが,鼻をくんくんさせて顔をしかめて,灰皿をもってくる.
							☆親しくない人とは,距離をおく(パーソナルスペースが大きい?).バスの2人がけ座席も,まず窓側が全部うまってから通路側に座りだす.(いちゃついている男女は多いですが)
							☆家の中では靴を脱ぐ(西洋では靴のまま家に入ると思っている人,気をつけましょう.私もそうでした).
							☆たばこは普通家から外へ出て吸う(だからといって「吸うな」といわずに灰皿をもってくるところがいかにもフィンランド人).
							(浅野注:私のいた研究所でも,自分の個室で喫煙している人はいましたが,建物内の公共スペースでは禁煙でした.1995年2月の私の帰国直前には,事実上公共の建物内ではすべて禁煙になったようです)
							ご主人がタオルとガウンをもってきて,妻とおばさんにサウナを勧める.
							おばさん:「サウナ?誰が?」
							☆客をサウナに招待するのは最高のもてなしである.
							 
							ここで場面が6か月後にかわる.
							
							おばさんが,ご主人の会社に電話をして,約束をして再び訪問することになる.おばさんは,ちゃんと花を3本かってもっていき,ちゃんと玄関で靴をぬぐ.
							☆家を訪問するときは,花(奇数本)をもっていくのが伝統的作法である.
							 
							やっぱり さっきの隣人がきていて,会食で
							
							隣人:「フィンランドの印象はどうですか?」
							字幕:いつも同じ質問!
							☆実際,私もしょっちゅう"How do you feel in Finland?"と聞かれました. フィンランド語の先生によると,やはりよい答えを期待しているそうです.でも,サウナをほめると,「熱すぎていやだという外人も多いよ」といわれたりします.なら聞かないで:-)
							 
							というわけです.先生は,「フィンランド人は正直すぎて,外国貿易とかの交渉ごとが下手」といってました.また,先生のご主人(イギリス人)がはじめてフィンランドにきたころ,フィンランド人が命令文にpleaseとかole hyvää (英語のHere you are.くらいの意味で,命令文につけると丁寧になる)とかをあまりつけないのでとまどったとか.
				
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