No.6 東郷ビール (29/Aug./00) フィンランドに関心のある日本人が一度は聞く話に、東郷ビールの話があるが、 これは「伝説の東郷ビール」の話として、日本の中だけで語られている話である。 伝説の東郷ビールの話には、まず、フィンランドが帝政ロシアの圧制の下にあった時、 日露戦争が起こり、日本がロシアに勝ったことがフィンランド独立のきっかけとなっ たという前提がある。 その結果、フィンランドは親日国となり、バルチック艦隊を破った東郷元帥の肖像を ラベルにしたビールがフィンランドで発売され、東郷ビールとして人気を集めている というものである。 日露戦争で日本が勝ったことが、フィンランド独立のきっかけになったのかどうか、 私は知らないが、しかし、仮にそうであったとしても独立直後ならいざ知らず、この ビールが発売された時点(1971年)からでも、50年以上も前の特定の外国人の 事を思い出して、一般向けのビールのラベルにしたりするだろうか? 私は1969年〜1974年(途中、半年程西ドイツにいたが)までフィンランドに滞在 していて、レストランでウェイターをしていたのでよく覚えているが、確かにこの東郷 ビールなるものは1971年に新発売された。 ただし事実はというと、まず、ビールの名称はアミラーリ(Amiraali、英語のadmiral) で海軍大将・提督の意。 世界各国の海軍大将の肖像をラベルに用いたもので、東郷元帥はその中の一人として 登場。(確か、7人ほどの提督の写真がラベルに使われていた。) だから、注文する時も、当然アミラーリと呼ばれ、誰も東郷ビールとは言わなかったし、 日本人の私が、ビールを客に持っていっても誰もなんの反応も示さなかった。 推測するに、30年前、フィンランドを訪れた日本人が、日本人などほとんどいない国 で、ビールを注文したら日本人がラベルになっているのを目にして驚いた結果、話に 尾ひれがついて、「東郷ビール伝説」なるものが出来たのではないだろうか。 数年前にこのビールを生産していた会社が倒産したため、このビールは現在生産されて いないから、当然フィンランドでは売っていない。 しかし、何故か日本では売られているそうである。 そのからくりは、このビールの話を聞いた東郷元帥ゆかりの神社が、商社にこのビール の輸入を依頼したところ、商社がオランダの無名のビールに、アミラーリの東郷元帥の ラベルを貼り日本に輸入しているからだそうだ。 今回の話題に関連するフィンランド語 *通常フィンランド語のアクセントは第1音節にあり、読み方は、 俗に言うローマ字読みでほぼOK。 *フィンランド語のアルファベットには2つのウムライトがあるが、 日本語環境のOSでは表示出来ない為、ウムライトの表示はそれ ぞれ A: O:と表示。 日本 JAPANI (ヤパニ) フィンランド SUOMI (スオミ) レストラン RAVINTOLA (ラヴィントラ) ウェイター TARJOILIJA (タルヨイリヤ) ウェイトレス TARJOILIJATAR (タルヨイヤタル) おまけの単語説明 今回の tarjoilija/tarjoilijatar のようにフィンランド語では、 単語の語尾に TAR がつくと女性を表す。 たとえば、他には ナユッテリヤ na:yttelija:(俳優) ナユッテリヤタルna:yttelija:ta:r(女優) クニンガス kuningas(国王) クニンガタルkuningatar(女王) etc・・・