finland
Suomen kielen ääntäminen
フィンランド語の発音

フィンランド語の発音は,日本語のそれに大変近く,日本語の話者には簡単に習得できます.とくに,次のような特徴があります.

  • 文字と発音は,完全に一対一に対応します.また,アクセントは単語の先頭にあり,イントネーションは常に一定で疑問文等においても変化しません.したがって,文字で書いてある文は,常に正しく読むことができます(ただし,長い合成語では各要素の切れ目を知らないと発音できません).
     
  • 単語の終わりに来ることができる音は,母音か,t,s,n,まれにr,lの5種類の子音に限られます.
     
  • 母音,子音とも,長短の区別があります.「長子音」とは,日本語でいう「小さいツ」(N, Mにおいては「ン」)が前に入った音です.
     
  • 「母音調和」 と呼ばれる現象があります.これは,後舌母音(a, u, o)と前舌母音(ä, y, ö)が1つの単語(合成語の場合は単語を構成する1つの要素)の中に同時に現れることはない,というルールです.
     
  • 単語の初めに子音が2つ続くことは,外来語以外ではありません.ですから,フィンランド語化した外来語や外国地名には,kippari ( < skipper),lasi ( < glass),Ranska(フランス),Tukholma(ストックホルム)のように,語頭の子音が脱落しているものがあります.
     
  • 母音が3つ続くことは,避けられる傾向があります.ですから,単語が変化するときに,juoda(飲む) > joi((彼・彼女は)飲んだ),yö(夜) > öinen(夜の)のように,3つ続く母音を避けるために語形変化の際に先頭の母音が脱落するものがあります.

それでは,各アルファベットの発音をみてみましょう.以下で,ある発音が「ありません」「...することはない」という表現がありますが,これは純粋のフィンランド語にはないという意味で,外来語には出てくることはあります.

  • A [アー]... 日本語のアに同じ.AAは長いA.
     
  • B [ベー]...ありません.外来語ではPと同じ音で発音する人もいます.例:bussi[プッシ](バス),banaani[パナーニ](バナナ)
     
  • C [セー]... ありません.外来語ではSと同じ発音.
     
  • D [デー]... ダ行の子音に同じ.本来dの音はフィンランド語にはなく(例:Tanska「デンマーク」),この文字は方言差を吸収するために「それぞれの方言に合わせて読む」という形で導入され,それが後にdの音で発音されるようになりました.現在でも,方言によってはRやJの文字と同じように発音されます.また,Dは語頭にくることはなく,DDという子音はありません.
     
  • E [エー]... 日本語のエよりもすこし口を横に張っているように感じますが,ドイツ語のようなイに近い音ではありません.EEは長いE.
     
  • F [エフ]... ありません.ただし,スウェーデン語起源の地名(Forssaなど)にはまれに出てきます.
     
  • G [ゲー]... NGの組合せでのみ現れ,この音は鼻音(発音記号でいう逆さのG)を長く発音する音です.例えば,Helsingissä(ヘルシンキで)という単語は,「ヘルシンギッサ」ではなく「ヘルシンンィッサ」といった感じの音になります.
     外来語以外では「ガギグゲゴ」の音はなく,それを表すGの文字も現れません.外来語では,例えば英語のsuggestiveから来た外来語suggestiiviは「スッケスティーヴィ」と発音されます.
     
  • H [ハー]... 母音の前では日本語のハ行の子音,子音の前ではドイツ語のCHのような音になります.
     
  • I [イー]... 日本語のイに同じ.IIは長いI.
     
  • J [イィー]... 日本語のヤ行の子音.
     
  • K [コー]... 日本語のカ行の子音.KKは,前に小さい「ッ」が入ります.
     
  • L [エル]... 舌の前の部分を上の歯の根元につけて発音する「ル」.LLは,前に小さい「ッ」が入ります.また,LJのLは,「リ」の子音のように(口蓋化子音で)発音します.例えばneljä(数字の4)は「ネルヤ」ではなく「ネリヤ」です.
     
  • M [エム]... 日本語のマ行の子音.MMは,前に「ン」が入ります.
     
  • N [エヌ]... 日本語のナ行の子音と同じ.語尾においても日本語の「ン」のような撥音にはなりません.NNは,前に「ン」が入ります.
     
  • O [オー]... 日本語のオに同じ.OOは長いO.
     
  • P [ぺー]... 日本語のパ行の子音に同じ.PPは,前に小さい「ッ」が入ります.
     
  • Q [クー]... ありません.
     
  • R [エルル]... 舌を口内の前の方で震わせる音.RRはより長い時間震わせます.また,RJのRは口蓋化子音で発音されます.
     
  • S [エス]... 日本語のサ行の子音に同じ.SSは,前に小さい「ッ」が入ります.なお,SHの音はありません.
     
  • T [テー]... 日本語のタ行の子音に同じ.TTは,前に小さい「ッ」が入ります.TSは,日本語の「ツ」の子音に同じ.
     
  • U [ウー]... 日本語の「ウ」よりも唇を尖らせて発音します.UUは長いU.
     
  • V [ヴェー]... 英語のVと同じ.
     
  • W [カクソイス ヴェー](二重のV)...ありません.発音する場合はVに同じ.ただし,店の名前などで古風な感じを出すために,古いスウェーデン語の書き方にしたがってVをWで書くことがあります.例:wanha = vanha(古い)
     
  • X [イクス]... この字は通常用いません.外来語でもekspressiのようにKSと綴ります.
     
  • Y [ユー]...Uの口でIを発音します.この音は母音であることに注意.独語のÜと同じ.YYは長いY.
     
  • Z [ツェット]... ありません.
     
  • Å [ルオツァライネン オー](スウェーデンのオー)...この文字はスウェーデン語の文字ですが,フィンランドにはスウェーデン系の地名,人名が多くあるためフィンランド語の文字にも入っています.発音はOOと同じ.
     
  • Ä [エァ]... Aよりも舌を前に出し,若干口を左右に開いて発音する.ÄÄは長いÄ.
     
  • Ö [?]... Oの口で,舌を前に出して発音する.独語のÖと同じ.ÖÖは長いÖ.

このように,フィンランド語は音の種類が少なく,純粋のフィンランド語を書くのに必要なローマ字は21字だけです.これは,子音の有声/無声,有気/無気の対立があまりないためです.つまり,P, K, S, TSという無声子音はありますが,これに対応する B, G, Z, DZという有声子音はありません.また,無声子音Tはありますが,これに対応する有声子音Dは,上にあるようにあまり出てきません.

また,これらと逆の関係になっているのがVとFで,VはありますがFはありません.つまり,フィンランド語ではBとVの区別をする必要がなく「いつもV」なので,私にとっては,この点でも発音や聞き取りは楽でした.また,フィンランドに滞在している間に,英語や日本語の外来語でもVの音をきちんと発音するくせがついたように思います.

以上のように,フィンランド語では日本語でいう「濁音」が少ないのに加え,連続する子音が少なく母音の割合が多いことから,明るい響きに聞こえます.私の滞在中にフィンランドに遊びに来た日本人女性は「音が可愛い」と言っていました.

フィンランド人にとっては,「子音が連続し,濁音が多い」ロシア語の発音は対極にあるようです.私が現地のカルチャースクールで通っていたロシア語教室の先生は,英語とドイツ語も教えていたほどの達人ですが,ロシア語の"gdje"(「どこに?」)の発音ができず,"kidie"と発音していました.また,同時に通っていた外国人向けフィンランド語の先生に「Akira, ロシア語で"Terve!"(こんにちは)って何ていうの?」と聞かれて,"Zdravstvyi!"と答えたら,先生は目を白黒させていました("Terve!&などのあいさつ言葉については,当サイトの「『てれび』と『もーいい』」もごらんください).

ところで,一部のフィンランド語の解説書には「本来フィンランド語にはない"シュ,ジュ"という音を表わすためのŠ, Žという文字があり,šekki(< check, 小切手)のような外来語に用いられる」と書いてありますが,私は現地でこれらの文字を見たことはありませんでした.šekkiは単にsekkiと書き,「セッキ」と発音していました.



リンクしていただきました